研究内容

1.比較解析を用いた、肺腺癌の初期悪性化因子の探索

肺腺癌は、肺癌の中でも最も頻度の高い組織型であり、手術後の5年生存率は40%以下と非常に予後の悪い腫瘍の1つです。
私たちはこれまでに、肺腺癌が「異型腺腫様過形成」→「上皮内腺癌」→「微少浸潤性腺癌」→「浸潤性腺癌」と多段階的に悪性化することを証明してきました(Noguchi M, Cancer 1995)。微小浸潤癌までは外科的切除によって100%の予後が得られますが、一度浸潤性腺癌へと悪性化すると術後5年生存率は75%以下となり、4人に1人の患者は5年以内に死亡してしまいます。私たちはその予後の差に着目し、分子生物学的手法を用いて予後を不良にさせる分子レベルの変化を解析しています。
これまでに、DNAレベルでの違いをCGHアレイ(Murata Y, Cancer Science 2014.)で、mRNAレベルでの違いをSSH法(Ishiyama T, Cancer Science 2007.)やcDNAマイクロアレイ(Shiba-Ishii A, Int J Cancer 2011)を用いてスクリーニングしており、肺腺癌の初期悪性化因子としてSFN、OCIAD2、ECT2などを発見してきました。さらにSFNは、SFNプロモーター領域におけるDNA「脱」メチル化によって発現が異常に亢進し(Shiba-Ishii A, Am J Pathol 2012)、細胞増殖能を高めることで腫瘍の悪性化を引き起こしていることがin vitro、in vivoで明らかになりました(Shiba-Ishii A, Mol cancer 2015)。現在は、SFNと肺腺癌特異的SFNリガンドとの相互作用をin virtoで解析し、分子治療薬の新規標的となる可能性を探っています。
また、上皮内癌と浸潤性肺癌のタンパク質レベルでの違いをLC-MSで、ヒストンレベルでの違いをChIP-seqを用いて解析し、新たな初期悪性化因子の探索も進行しています。

2.胎児性抗原に着目した癌マーカーの探索

現在診断病理学で用いられている腫瘍マーカーは悪性度マーカーとしてCEA、MIB-1、p53等があり、腫瘍の性格を表すマーカーとしてCEA、AFP等があります。これらのバイオマーカーは腫瘍の悪性度や発生部位を知るうえでとても重要です。一方悪性腫瘍にはいわゆる『先祖帰り』と言われるようにその発生臓器の胎児性抗原を発現するようになる性質があります。CEAやAFPなどは胎児性抗原で、これらの抗原は原則として成人では発生していないので極めて特異的なマーカーと言えます。ただし、倫理面からヒト胎児を利用して胎児性マーカーを探索することは不可能なため、当研究室ではそのmRNAが70%以上ヒトと相同性を持つブタ胎児を用いることによって肺癌の新たな胎児性マーカーを探索しています。
具体的には、マウスに抗原蛋白を免疫し、リンパ球を回収、マウスミエローマ細胞SP2/0とFusionさせ、ハイブリドーマを作製し、モノクローナル抗体を含むハイブリドーマ上清を用いてスクリーニングを行っています。これまでにDDAH2が新規肺癌マーカーとして見出され、肺腺癌の血管新生を促していることを発見してきました(Shiozawa T, Virchow Archv 2015)。現在は、免疫抗原をブタ胎児の核蛋白に限定するなど改良を行い、新規胎児性マーカーの発見を目指しています。

3.発見された分子の組織・細胞診断への応用研究

当研究室は附属病院病理部と直結していることから、組織、細胞、気管支洗浄液など、様々なヒト材料を研究利用することが可能です。その強みを活かし、1,2で発見されたSFN、OCIAD2、ECT2、DDAH2は上皮内癌に比べて浸潤性腺癌で有意に発現が高く、浸潤性肺癌を識別するマーカーとして組織診、細胞診で有用であることが証明されています(Itoguchi N, Cytopathology 2015)。基礎研究で発見したことをすぐに臨床の場に還元しやすいことも当研究室の有利な点です。

臨床研究

下記の臨床研究のいくつかは、これまで治療を受けた患者さんの臨床データを使用させていただきます。
これらの研究は当院の倫理委員会で承認を得ており、個人情報の保護に十分配慮し、個人が特定されない方法でデータの処理を行いますが、患者さんご自身のデータ使用に同意されない場合は当科までご連絡ください。
(連絡先は「お問い合わせ」をご参照ください)

なお、仮に研究への参加を断った場合でも、当科における今後の診療・治療において不利益を被る事はありません。 

・喀痰細胞診診断後残検体を用いた遺伝子解析、免疫染色による肺癌発見率向上のための研究
・肺癌組織を用いたプロテオミクス解析
・孤立性線維性腫瘍における悪性転化のメカニズムの検討
・脂肪塞栓症候群の解剖材料を用いた検討
・「次世代シークエンサーを用いた多発肺腺癌の網羅的遺伝子解析」
・肺癌バイオマーカー探索に関する臨床研究 PDF

・ヒト由来サンプルからの全自動核酸抽出に関する研究 PDF

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